朝とは、文字盤の上を動く長針と短針が表すものではなかった。 地平線が燃え上がり、夜空が駆逐され、そこに自らの影を見出すことであった。 冷風が額を貫く。空気のなかには蜜の味。
この一年間で最も通った店はおそらくここだろう。 スタンプを17回押したら1食無料になるポイントカードは、現在3枚目に差し掛かっている。 元気な日も、疲れた日も、暖かい料理で迎えてくれた。 山盛りのチャーハン、唐揚げ丼。 生の玉ねぎが敷いてある麻婆…
昨年採ったヤエマルの標本が完成したので標本箱に入れることに。 箱に入れる前に、採集地や採集年月日などを記した「データラベル」と、採集した虫の学名などを記した「同定ラベル」をつける。 様々な情報が載ったラベルを付けることで、その虫に標本として…
先日、職場の人との宴席で最近の趣味について聞かれ、咄嗟にこう答えた。 「植物園でアマガエルを探し、写真に収めることです」 目の前の上司が怪訝な表情を浮かべていたので補足する。 「一匹一匹に個性があります。神経質なやつ、緊張するやつ、のんびりし…
主題は繰り返される。 何度も塗り直される地。 遠目では混沌でも、近づけば全ての色が必要なことに気付く。 既知の隣に、際限なく広がる無知。 知れば知るほど、謙虚にならざるを得ない。 「なりたい」には「なれない」。 別人の何者かになるのではなく、内…
花盛りだった。 桜は散り始めている。 散った花弁がいつもの風景に交じる。 花はいつしか散る。 散ることで、限りあることを示してくれる。 その儚さが、花をより一層美しくさせる。 ヤマブキやツツジも見事だった。 園内に色が一気に増えた。 花々、若葉、…
この週末は各所で桜が見頃を迎えている。 午後に大学の並木を見に行った。 木々は枝から溢れんばかりの花をたたえ、見物客で賑わう。 一年のうち僅かしかないこのひとときを、みんな待ち望んでいたのだ。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー こ…
2日続けて植物園参り。 昨日は沢山の花を観察できてよかったのだが、ひとつ心残りがあった。 アマガエルである。 毎年この時期になると冬眠から覚めて活動を始める。今年も既に鳴き声は確認していた。 でも、見つからない。その姿を見つからないのである。こ…
年が明けてから、本をよく読むようになった。 小説、ノンフィクション、詩集、専門書、 新しく買った本、昔に読んだ本、買ったけど棚に眠っていた本、 いまは同時並行で5、6冊読んでいる。 社会人になってからは、久しく読書から離れてしまっていた。 仕事が…
閉園30分前に滑り込み。 短い時間なので手前のエリアだけ散策したが、思いの外色々な花を見つけられた。 園内に彩りが増えてきて、楽しい季節である。 花が咲くと、香りに気づく。 ヒサカキ、沈丁花などが芳香を漂わせる。 春の匂いだ。 匂いと記憶は密接に…
植物園で開催中の特別展へ。今回は蘭がテーマ。蘭展は毎年行われているが、毎回少しずつ焦点を変えている。 今回の目玉はJuel Orchid(宝石ラン)だ。 その名の通り、葉が宝石のように艶々とした光沢を放っている。しばらく釘付けになってしまった。蘭は花だけ…
デスクワークを始めて一年が経とうとしている。近頃は明らかに体力が落ちた。ちょっと駆け足で走っただけで、数階分の階段昇降だけですぐ筋肉痛になってしまう体たらく。 これでは「夏」に戦えないと思い、久しぶりにハイキングへ行くことにした。そろそろ春…
3月2日。ちょうど一年前の今日、学生最後の旅に出た。 行き先は、小笠原諸島。 片道丸一日かかる1000km超の船旅。 その先に待っている独自の自然。 それだけでロマンを感じる。 当時は、学生時代が終わってしまう名残惜しさと、社会人としてのスタートに漠然…
2月は逃げ、気づけば3月。 今日は植物園の前に河津桜を見に行くことに。 池のほとりに株立つ一本の立派な木で、学生時代から見に行っていた場所だ。 訪れると、ちょうど満開。枝先までびっしりと花をつけている。 見上げれば青空がピンク色に覆い隠されてし…
一人暮らしを始めてから、自炊をする機会が増えた。 基本的には煮るか炒めるかでまとめて何食分か調理する。その時々で食材と味付けを変えれば、さほど飽きない。 レシピはあまり見ない。それ故に塩加減や火の通し具合を見誤ることもあるし、せっかく美味し…
今週前半は気温が上がったが、昨日は寒の戻りで冷え込み、雪もちらついた。 今日は晴れているけれど、気温は低い。 14時頃に訪園。 梅が散っていた。 梅の木は咲く期間が短いにも関わらず、日本中のそこかしこに植えられている。 多くの草木が目覚めておらず…
先週の連休は、職場の同期3人で沖縄旅行に出かけた。 乗継以外で沖縄島に立つのは2019年の遠征以来、5年ぶりである。 当時は採集遠征で、観光らしいこともほとんどしなかった。だから今回の旅は新鮮な心持ちで楽しみにしていた。 ーーーーーーーーーーーーー…
東京へ出かける用事があったので、その前に近所の公園へ。気温も丁度良く、散歩日和である。 梅の木が沢山あると聞いていたので初めて行ってみたわけだが、想像以上だった。 どの木も満開だ。 シートを広げて花見をする家族連れで賑やかな、温かな雰囲気であ…
2週間ぶりの来園。 植物園に向かいながら、この時間を必要としていた自分に気づく。 漫然と歩きながら、目に留まった草花を観察し写真に収める。 彼らの小さな変化を見逃さないよう、注意深くまなざす。 安息と集中の同居。そこに使命感や義務感は無く、何の…
生き物を愛好する人、或いは研究する界隈では〇〇屋と呼称する風潮がある。 すごく大雑把に言うと、例えばチョウが好きな人は蝶屋、飼育が好きな人は飼育屋、といった具合に自称し、互いの専門を認識し合う。 私の場合、今でこそクワガタを採集するために方…
人生で最も何かに没頭した時間はいつ? 人生で最も濃密だった時間はいつ? 私は迷わず「2020年」と答える。 2020年は春先から晩秋まで、毎晩のように夜の森へ出かけた。私の在籍した大学は敷地の大半が森に覆われている。 目的は、虫を観察するため。 この森…
昼下がりに訪問。 昨日と打って変わって曇天模様で寒々しい。 ここでも梅が見頃。 今日も枝分かれや枯れ葉を見つめながら散策する。 途中、近頃はカメラの画面を通した姿しか見ていないことに気づく。 肉眼で細部の細部を凝視する感覚、一周まわって新鮮であ…
今日は土曜日。 いい土曜日だった。 そんな気がするので、ここに書き記すこととする。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー AM まず、目覚めが良かった。 正確には二度寝後の目覚め。 8時頃に一旦起きて朝食を食べ、歯を磨いて髭を剃り、再びベッド…
何事にも、始まりがある。 最初の経験は特別なものである。 2019年夏の沖縄は初めての採集遠征だった。 虫を採るためだけに南の島まで赴くなど、大学に入った頃は思ってもみなかった。 未知なる世界の入口に立った気がして、強い興奮を覚えた。 現地では、大…
昨日の午後は梅を見た後、ある虫を探しに行った。 向かった先は、エノキの大木の下。 根本にしゃがみ、堆積した落ち葉を一枚一枚丹念に裏返す。根気を要する作業。つくばで過ごす冬は、毎年一度はこうして探している。 15分ほど経っただろうか、ある一枚の落…
車を買ってから迎える最初の週末、やりたいことは決まっていた。 いつもの場所に朝日を見に行く。 5時前。外はまだ夜が支配する。 煌々と輝く満月に照らされた。星は前回ほどは見えなさそうだ。 今までは寒さに耐えながら自転車を漕いで行っていたが、その苦…
2週間ぶりの植物園。 昼過ぎの日差しが暖かい。 いつも通り野菜コーナーから見ていくと、白菜やタアサイがパリッとした葉を広げている。 この時期は梅の花が見頃を迎え始める。先々週は蕾だった花が一斉に開花していた。近づくと芳香が漂う。来園者はみな足…
書いては途絶えてを繰り返していたブログを再開します。ハンドルネームもブログ名も心機一転。 「自分だけの採集記を紙の冊子で出したい」というちょっとした夢があるのですが、仕事や日々の疲れで先延ばしになりそうな予感があります。 とりあえず、目の当…
修士論文を提出して一段落したので、やっておきたい虫活に取り組んでいます。 生きものの世話は後回しにできないので、まずはトクノコとアマノコの成虫管理から始めることに。掘り出してルアケで保管していた個体はぬれティッシュを交換。数ヶ月間ワインセラ…
北海道の虫シーズンも終盤である。9月はヒメオオもルリオサも採り、後半は博物館実習で忙しかった。 北海道での採集もおしまいか...と感傷に浸っていたら、実習先で“ある虫”が展示されているのを目にした。 ナミゲンゴロウである。このサイズ感、洗練された…