回想、2020年深夜徘徊

人生で最も何かに没頭した時間はいつ?

人生で最も濃密だった時間はいつ?

私は迷わず「2020年」と答える。

2020年は春先から晩秋まで、毎晩のように夜の森へ出かけた。私の在籍した大学は敷地の大半が森に覆われている。

目的は、虫を観察するため。

この森にいる虫のことをもっと知りたい、その一心だった。

最初は当時関心のあったカブトムシとクワガタばかり探していたが、次第にそれも飽きてくる。

他の虫にも目が向くようになるのは自然な流れだった。

主に見回るのは、街灯や樹液を出す木。そこには季節や時間帯によって多様な顔触れの虫たちが集う。

しっかり夜が深まった21時前後から見回り、初見の虫に出会ったら写真に収める。それが気づいたら日課となっていた。

平坦な地形を2、3時間程度で見回れる「箱庭感」も丁度良かったのかもしれない。

虫の生態を直に学び、彼らの懐に少しだけ近づけた気がした。

行けば新たな発見が必ずあった。

頭の中には自分だけの「虫の地図」が描かれていく。「この時期の、この時間帯に、この街灯に行けば、あの虫に会えるだろう」といった具合に。

地図は日を重ねるごとに緻密になっていった。

毎日通い詰めると、微妙な変化にも気づくようになる。

注意深く彼らをまなざすことで初めて分かることが沢山あった。

生命は想像以上に逞しく、脆い存在であること。

季節は常に移り変わっていること。

一つとして同じ瞬間はないこと。

今日という日が唯一無二であること。

それらはコロナ禍による孤独で単調な日々を送っていた私にとって、とても大切な学びだった。

様々な選択肢がある大学生活を、毎晩虫を求めて徘徊するのに費やす現状に迷いは当然あった。

お金もかからないので続けられていたが、大学では昆虫に関わる専攻でもなければ、知識も殆ど無いに等しかった。

「こんなことをしていて良いのか、いったい何の役に立つのか」と毎日悩んでいた。

でも、最近になってようやく分かった気がする。

「理屈抜きで没頭できることとの出会い、その過程で得られる学びは、かけがえのないものである」ということに。

人生における出来事が持つ意味は、時間の経過とともに変化する。

確かなのは、当時の私は虫と真っ向から対峙し、そこに何かを見出そうとしていたことである。

あのときの熱っぽい感情、自然に向き合う姿勢は忘れずにいたい。