標本は語る

昨年採ったヤエマルの標本が完成したので標本箱に入れることに。

箱に入れる前に、採集地や採集年月日などを記した「データラベル」と、採集した虫の学名などを記した「同定ラベル」をつける。

様々な情報が載ったラベルを付けることで、その虫に標本としての価値が生まれる。

 

ラベルを付け終えたら、標本箱の左上から右へサイズ順に並べていく。

標本をぶつけて壊さないように、列が曲がらないように、細心の注意を払う。

 

ついに完成した。この4年間が詰まった西表ヤエマル箱だ。

一つの標本箱に同種を並べると、各個体の特徴が浮き彫りになる。

アゴの形、体の厚み、横幅、体色...
それぞれにオンリーワンの個性があるのがヤエマルの良さである。

 

そして何より、ヤエマルほど数ミリの差が如実に現れる虫もなかなかいない。

体長が1ミリ違うだけで、パッと見たときの大きさが全然違う。誇張ではない。本当に、何から何まで違うように見える。

ヤエマル採集を始めた頃にはなかった感覚だ。

他の人の標本も含めて沢山のヤエマルを見てから、個体間の微小な差異に気づくようになった。

一つひとつの標本に記憶がある。見つけたときの興奮を覚えている。誰に見せて語り合ったかを、手に取るように思い出せる。

ラベルには書かれない個人的な経験。それこそが、この趣味で最も大切にしたいことなのかもしれない。

 

趣味として自分の手で採ったものだけを標本にして蒐集する。

そうして集められた標本は単なる虫の死骸ではない。

採集した当時の記憶を想起させる、強い影響力を持った存在である。

またいつの日か、この箱を囲んでかつての採集仲間と語り合う日を心待ちにしている。

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次は、北海道にいた2年間で採集したオオルリオサムシの標本整理に着手したい。

道内各地を渡り歩いて採った、この色彩豊かな甲虫にも思い出が沢山ある。

整理しながら当時の記憶を辿るのが楽しみだ。