風はほとんど無かった。
もう寒くない。
流れる雲を月明かりが照らす。
深夜3時過ぎ、職場の同期2名を伴って筑波山へ向かった。
スタート地点となる駐車場に着く。
あたりはまだ暗い。
ライトで足元を照らしながら序盤の岩場を歩いていく。
春先から何回か登ってきたおかげか、脚も少し慣れてきた気がする。
最初の東屋で休憩をとる。
日は出ていないが、少しずつ周囲が見えてきた。茂みでは鶯が鳴く。
登りながら、いろんな話をした。
登山中は顔を向き合うことがないから話しやすいのかもしれない。
2つ目の東屋で再び小休憩。
下の世界を雲海が覆う。
二週間前から季節が進み、森の匂いも少し変化した。
歩みを進める。
尾根に出ると、朱に染まる空が見えた。
終盤は再び岩場。
一歩一歩、自分の重心を感じながら丁寧に歩く。
...
山頂へ着いた。
我々の他に3人しかおらず、静かだった。
風はほとんど無い。
腰を下ろして朝日を浴びる。
頭上には夜空の名残、眼下には雲の海。
今日、ここにいる者しか味わえない景色だ。
激しさは微塵もなく、穏やかな時だけが過ぎてゆく。
ただ眺めているだけなのに、ただ眺めているだけだから、満たされるものがあった。
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下山後の朝食も楽しみにしていた。
達成感と疲労感が、食べ物をより美味しくする。
今日は麓の製麺所に立ち寄ってラーメンを食べた。
弾力のあるちぢれ麺に出汁の効いたスープ。
ひと仕事を終えた身体に沁み渡る。
朝に相応しいラーメンだった。
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もう間もなく、空気のなかの蒸し暑さの割合が高まることと思われるが正直戸惑いを隠せない。
時の流れ、季節の巡りがあまりにも早過ぎる。
比喩でもなんでもなく、一年前が昨日のことのように感じられてしまう。
老いている実感は日を重ねるごとに確かなものとなりつつある。
残念ながら、それに対する妙案が思い浮かばない。
とりあえずは日々で出会った「なんか良かった物事」を忘れる前に記録することしかできない。
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太陽は高くなり、さっきまであったはずの「朝」は消え去ってしまった。
藤の花に誘われた熊蜂。
軒下を旋回する燕。
いつのまにか春と初夏を跨いでいた。